こんにちは、現役医師のこんどすです!
今回はDPE(Dural Puncture Epidural)についての記事です。
無痛分娩で使用される麻酔方法といえば、硬膜外麻酔単独(Epidural Analgesia)やCSEA(Combined Spinal-Epidural Analgesia)が一般的でしたが
ここ数年では第3の選択肢としてDPEが注目されています!
実際に僕の施設の無痛分娩は、DPEかCSEAの2択で行っていて、硬膜外麻酔単独をすることはなくなりました。
そんなDPEについて有名な論文を紹介していきます。
論文紹介の趣旨については第1回の記事をご確認ください。
今回紹介する論文はこちらです。
Dural Puncture Epidural Technique Improves Labor Analgesia Quality With Fewer Side Effects Compared With Epidural and Combined Spinal Epidural Techniques: A Randomized Clinical Trial
DPEは硬膜外麻酔単独やCSEAより少ない副作用で、鎮痛の質を改善するか
Anthony Chau, Carolina Bibbo, Chuan-Chin Huang, Kelly G Elterman, Eric C Cappiello, Julian N Robinson, Lawrence C Tsen
Anesth Analg. 2017 Feb;124(2):560-569.
原文リンクはこちら。
簡単に内容を説明すると
DPEで無痛分娩を行えば、CSEAより少ない合併症で、硬膜外麻酔単独より質の高い鎮痛を提供できそうだ
という内容です。
では、さっそく確認していきましょう!
急ぎの方は、目次の結果からどうぞ!
一緒に学んでいきましょう!
アブストラクト
背景
- DPE(Dural Puncture Epidural:DPE)はCSEA(Combined Spinal-Epidural Analgesia:CSEA)を応用したもので、脊麻針でくも膜穿刺はするが、薬液投与はせず、穴だけをあけるテクニックです。
- DPEはCSEAの副作用なしに、EA(Epidural Analgesia:EA)と比較して仙骨領域への広がりを改善すると言われている。
- 産痛緩和のオンセットがCSEA>DPE>EAの順で速いと仮定した。
CSEAは急速な鎮痛による合併症が、EAは仙骨領域への広がりがそれぞれ弱点だね
方法
- 120人がランダムにEA,DPE,CSEAに割り振られたRCT
- EAとDPEの初期投与量は0.125%ブピバカイン20ml(フェンタニル2μg/ml)
- 5ml×4回を5分かけてトップアップ
- CSEAは脊髄くも膜下に0.25%ブピバカイン1.7mg+フェンタニル17μgを投与
- 脊麻針は25Gペンシルポイント
- 盲検化された2人の産科医が麻酔前後1時間の子宮収縮と胎児心拍を調査
- アウトカムは以下の通り
- NRS≦1までの時間
- 両側S2ブロック
- トップアップの介入
- ブロック左右差
- 嘔気
- 掻痒
- 低血圧
- 運動遮断
- 子宮頻収縮と過収縮
- 胎児心拍数と胎児徐脈
- 胎児心拍異常(NICHDカテゴリー)
結果
- DPEとEAとで有意差なし
(hazard ratio 1.4; 95% confidence interval [CI] 0.83-2.4, P = .21) - DPEはCSEAより有意に遅かった
(hazard ratio 0.36; 95% CI 0.22-0.59, P = .0001) - NRS≦1になるまでの時間の中央値
CSEで2分(0.5-6)
DPEで11分(4−120)
EAで18分(10−120)
DPEとEAで有意差はなかったけど、時間の中央値を見ると予想通りCSEA>DPE>EAの順で速そうだね
- 両側のS2までのブロックが達成しやすかった
(10分後 RR 2.13; 95% CI 1.39-3.28; P < .001
20分後 RR 1.60; 95% CI 1.26-2.03; P < .001
30分後 RR 1.18; 95% CI 1.01-1.30; P < .034) - 30分後のブロックの左右差(デルマトーム2分節を超える)が少なかった
(RR 0.19; 95% CI 0.07-0.51; P < .001) - トップアップの介入が少なかった
(RR 0.45; 95% CI 0.23-0.86; P = .011)
DPEの方がEAよりよく効くって感じだよ
- かゆみが少ない
(RR 0.15; 95% CI 0.06-0.38; P < .001) - 低血圧(入院時収縮期血圧より20%以下の)が少ない
(RR 0.38; 95% CI 0.15-0.98; P = .032) - 子宮頻収縮と過収縮が少なかった
(RR 0.22; 95% CI 0.08-0.60; P < .001) - トップアップの介入が少なかった
(RR 0.45; 95% CI 0.23-0.86; p = .011)
CSEAするときの悩ましい合併症が少ないのはいいよね
結論
麻酔効果のオンセットはCSEA(2分)が最も速く、DPE(11分)とEA(18分)とはDPEの方が速かったが、有意差はなかった
DPEはEAと比較してブロックの質が高かった
DPEはCSEAに比べて母児の合併症が少なかった
まとめ
僕個人の意見です。大きく2点あります。
- DPEは硬膜外麻酔単独の上位互換だが、もちろんCSEAに劣るところもある
- 27Gの脊麻針は効果があるか問題
① DPEは硬膜外麻酔単独の上位互換だが、もちろんCSEAに劣るところもある
DPEは硬膜外麻酔単独の上位互換、つまり、EAの良さはそのままに、さらに鎮痛の質がアップといった感じ。
EAの良さ
- カテーテルの信頼性を確認できる
- 胎児一過性徐脈や掻痒といったCSEAに多い合併症が少ない
鎮痛の質がアップ
- 無痛分娩のクオリティーが上がる
- 緊急帝王切開の麻酔にも有効
- 麻酔のオンセットがCSEAより圧倒的に遅い
- S領域の鎮痛はやはりCSEAがいい(27Gだからかも)
安全性の担保って意味では、帝王切開への移行のしやすさは大事だよね
② 27Gの脊麻針は効果があるか問題
今回の論文で使用していた脊麻針は25G
日本で普及している脊硬麻キットを使用した場合、脊麻針は27G、あるいは26Gであることが多いでしょう。
27GのペンシルポイントではDPEの効果がないという報告もあります。
では、実際はどうかというと?
実際僕は27Gでも効果を感じています。
僕以外のスタッフや他施設の先生や教授など、だいたいみんな同じ意見です。
Epi単独をDPEに切り替えてから明らかに片効きが減りました。
S領域の鎮痛も広がりやすくなったように思います。
麻酔導入速度はあまり変わらない印象です。
デメリットとして、PDPHのリスクがありますが、それを上回るメリットのほうが圧倒的に多いと思います。
PDPHの発生率はペンシルポイント27Gと日本人産婦の組み合わせで0.09%(1000人に1人)です。
以上をふまえて、僕の施設では基本的にDPEかCSEAのどちらからで無痛分娩を行っています。
参考になればうれしいです!
ご意見あれば気軽にコメントください😊